毎日、鏡の前で当たり前のように同じ位置で髪を分ける。多くの人にとって、それは無意識の習慣かもしれません。しかし、その何気ない習慣が、あなたの分け目を少しずつ広げ、「分け目はげ」を引き起こす原因になっているとしたら、どうでしょうか。この現象は「牽引性脱毛症(けんいんせいだつもうしょう)」と呼ばれ、継続的な物理的ダメージによって引き起こされる脱毛症です。牽引性脱毛症と聞くと、ポニーテールやきついお団子ヘアのように、髪を強く引っ張るヘアスタイルを想像する方が多いでしょう。もちろん、それらも大きな原因の一つです。しかし、それほど強い力でなくても、長年にわたって毎日同じ場所で髪を分け続けることも、立派な牽引性脱毛症の原因となり得るのです。分け目をつけた髪は、重力によって常に左右に引っ張られています。このわずかな、しかし継続的な張力が、分け目部分の毛根に絶えず負担をかけ続けます。負担がかかった毛根は徐々に弱り、血行不良に陥ります。その結果、髪に十分な栄養が行き渡らなくなり、新しく生えてくる髪は細く弱々しくなり、やがては髪そのものが生えてこなくなることもあるのです。このタイプの脱毛症の怖いところは、痛みやかゆみといった自覚症状がほとんどなく、静かに、そしてゆっくりと進行していく点です。気づいた時には、分け目の地肌がくっきりと目立つようになっていた、というケースも少なくありません。しかし、牽引性脱毛症は、その原因が物理的なものであるため、早期に対策をすれば改善が見込める脱毛症でもあります。最も簡単で効果的な対策は、「定期的に分け目を変える」ことです。例えば、いつも右側で分けているなら、次は左側、その次はセンターパート、というように、数週間から一ヶ月ごとに分け目の位置を変えるだけで、特定の毛根への負担を分散させることができます。また、分け目を直線ではなくジグザグにとるのも有効です。分け目が気になり始めたら、それはあなたの頭皮からのSOSサインかもしれません。その声に耳を傾け、毎日の小さな習慣を見直す勇気が、あなたの髪の未来を守ることに繋がるのです。