私が自分の髪の異変に気づいたのは、特別な出来事があったからではなく、日常のふとした瞬間の違和感からでした。三十代に入り、仕事に追われる日々の中で自分の容姿に無頓着になっていた時期のことです。ある日の朝、いつものように洗面台で前髪を整えようとしたとき、指先に伝わる抵抗感が以前よりも弱くなっていることに気づきました。最初は疲れのせいかと思いましたが、照明の真下で額をかき上げてみると、そこには数年前の自分とは明らかに異なる景色が広がっていました。生え際のラインが以前よりも奥に退いており、特に左右のこめかみ部分は地肌が透けて、細い産毛のような毛ばかりが目立つようになっていたのです。その瞬間、背中に冷たいものが走るような感覚を覚え、私は必死に過去のスマートフォンの写真フォルダを遡りました。二、三年前の飲み会の写真に写る自分は、今よりもずっと力強い生え際をしており、前髪の密度も均一でした。写真という客観的な証拠を突きつけられたことで、私は自分の状態が一時的な体調不良などではなく、進行性の症状であると認めざるを得ませんでした。さらに注意深く観察すると、風呂場の排水溝に溜まる抜け毛の中には、十センチにも満たない短くて細い毛が何本も混ざっており、髪が一生懸命育とうとしているのに道半ばで力尽きている様子が手に取るように分かりました。この現実を直視することは非常に辛い作業でしたが、それと同時に「今ここで判断しなければ、数年後の自分はもっと後悔することになる」という強い危機感が湧いてきました。私はその日のうちにインターネットで診断基準を調べ、自分のパターンが典型的なM字型であることを確信しました。それまで「まだ大丈夫だろう」と自分に言い聞かせてきた甘い見通しを捨て、これは医学的に対処すべき問題なのだと腹を括ったのです。この自覚こそが、私にとっての本当のスタートラインでした。翌日、私は専門のクリニックに予約を入れましたが、あの時鏡の前で自分の弱さと向き合ったことが、結果として今の自信に繋がっています。判断を先延ばしにすることは、失われる髪の毛をただ見守ることに他なりません。自分の現在地を正確に知ることは、未来を変えるための最初で最大の勇気なのだと、今の私は自信を持って言えます。